児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件

今回の事案は,判決文によりますと,13歳未満の被害女子に,男性被告人が,自己の陰茎を触らせるなどのわいせつな行為をしたものの,その際自己の性欲を刺激興奮させ,満足させる意図はなく,金銭目的(筆者注,原審判決文によると,被告人は,金を借りる相手から,金を貸すための条件として,被害女児とわいせつな行為をしてこれを撮影し,その画像データを送信するよう要求されていた。)という被告人の弁解が排斥できないというものでした。  
昭和45年の事案というのは,被害者の裸体写真をとって仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたというもので,この事案に対して最高裁判所は,「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要」するとして,被害者に対する仕返しとして行ったような場合は,法定刑が低い強要罪(強制わいせつ罪は,当時法定刑が6月以上7年以下の懲役・・現在は6月以上10年以下の懲役・・なのに対して強要罪の法定刑は3年以下の懲役)などが成立するにとどまるとしました(昭和45年1月29日最高裁判決・刑集24巻1号1頁)。  
刑法で定める強制わいせつ罪が成立する要件は,13才以上の男女に対する場合,暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者(刑法176条前段),または13歳未満の男女に対する場合,わいせつな行為をした者(同条後段)とあるだけで,この場合,客観的に暴行または脅迫をしたかどうか(被害者が13歳以上の男女の場合),わいせつな行為をしたかどうかということと,行為者において,それぞれの行為について認識していたかどうかが問題となりますが,昭和45年の最高裁判所の判決及びそれ以降の実務では,これらの要件に加えて,行為者に「性的意図」があることが必要としたのです。これに対し今回の最高裁判所の判決は,この「性的意図」は不要だとしたのが特徴です。したがって,昭和45年の事案のように仕返しとして行った行為でも,それが被害者に性的な被害を与えるわいせつ行為であれば,強制わいせつ罪が成立する可能性が認められることとなったのです。  
今回の最高裁判所の判決に対する詳細な評価は,いずれ刑法学者などからあると思われます。特に医療行為の最中に患者に触れる行為が強制わいせつとなるのかなどが議論されることと思われます。いずれにせよ,強制わいせつ罪について,犯人が不当にその性欲を刺激興奮させ又は満足させたことを処罰するというのではなく,被害者が不当に性的な被害を受けたことを処罰するとその見方を変えた点に注目できます。  また,被告人の本件行為の当時,最高裁判所の判例では強制わいせつ罪が成立しないとされていたのが,後日突然強制わいせつ罪が成立し,処罰されるということの可否についても議論されるものと思われます。